恥の上塗り

恥の恥

最近読んだ本 2018/05/01-2018/05/31

今月はそこそこ本を読んだ。 

神林長平トリビュート

神林長平トリビュート (ハヤカワ文庫JA)

神林長平トリビュート (ハヤカワ文庫JA)

 

神林長平の初期の作品をインスパイアした短編集。

正直なところ神林長平火星三部作や比較的最近の作品しか読んでおらず、敵は海賊はおろか戦闘妖精・雪風すら読んでいないニワカなので一作も元の作品を知らないまま読んだがめちゃくちゃに面白かった。

特に敵は海賊をインスパイアした虚淵玄の短編が自由意志を持つ人工知能というベタな主題からは想像できないところに着地し、原作を読んでいれば何十倍も覚える感情が大きかったんだろうなと読んでいないことを少し後悔するレベルで良かった。

後、あとがきに本来伊藤計劃が一作書く予定であったことが記されていて、寂寥感にとらわれてしまった。

 

読書の価値

読書の価値 (NHK出版新書 547)

読書の価値 (NHK出版新書 547)

 

 森博嗣が「読書」について書いた新書。

昔読んだ森博嗣ミステリィ工作室かなにかで一冊の本を3時間で読むより一ヶ月かけて読むほうが偉い、と言い切っていたのがとても印象に残っていたがこの本でも大体同じようなことを書いていて笑ってしまった。

自身の人生を回顧するエピソードもなかなかに異質で頭がおかしく面白かったが一番良かったのはやはり森博嗣自身の読書観だった。

かいつまんで要約すると「読む本は自分で選べ」と「文章を読むだけではなく中身をとにかくじっくりと咀嚼して自分のものにして読め」というもので、読む本は自分で選べに関しては結構人のブログや感想を参考に本を選ぶことが多いのでなんとも言い難いが、咀嚼して自分のものにしろ、というのは最近自分なりに読書をする意味を考えた際に意識するよう気をつけていたことだったので少し嬉しくなった。

最近とにかく創作物を脳内にインプットする意味や理由についてずっと考えていて、最終的にたどり着いた結論が、インプットしたものに価値を与えていけるように(たとえば人と話す際の話題のタネなんかでも)意識して楽しめれば自らの存在の一部へと昇華できるのではないか……というものだったので、こういったことを考えていたタイミングでこの本が読めて良かった。

後は本を紹介する行為の無意味さについても書かれていたが、今やっている行為が全否定されてしまうのでそれに関しては触れないでおこうと思う。

 

安達としまむら

入間人間の女性と女性の感情のライトノベル

いろいろなところで話題になっているのは知っていたがオーラが凄くなかなか手が出せずにいた作品だが、予想通り凄まじい作品だった。

先月のあまいゆびさきの項でもサラっと書いたが、最近比較的規模感の大きい本ばかり読んでいるので個人のミクロな感情を精細な筆致で描かれると自分がどこからそれを観測しているのかわからなくなり頭がおかしくなってしまうので、震えながら読んだ。

tyaposon.hatenablog.com

1巻の時点で安達としまむらの関係性がだいぶ進んでしまっているのだが、今出ている7巻では一体どこまで関係性が進行しているのか、考えただけでも恐ろしい。早く続きが読みたい。

 

なるほどデザイン 

 デザインを仕事にしている友人にデザイン関連の面白い本を聞いたらこれを勧められたので読んだ。

こういったハウトゥー本にありがちな主観的なバイアスのかかったノウハウや専門用語が多用された焦点がぼやけた説明などがとにかく苦手なのだが、そういったものは一切なく、デザインのことを全く知らない自分のような読者に向けて書かれており、自分の力では言語化できない観念のようなものが上手く図式で表されていたり明文化されていたりで、読み物としても単純に面白いし自分でもやってみたいと思わされるような内容でめちゃくちゃ良かった。

 

 ヴィジョンズ

ヴィジョンズ

ヴィジョンズ

 

 もはや説明不要な作家が集まったSFアンソロジィ。当たり前のようにハチャメチャに面白かった。

円城塔の意味不明なカッコいい文章の羅列も含め全編良かったが中でも長谷敏司震える犬が群を抜いて白眉で読み終えた後放心してしまった。

「人間の文化には、ホモ・サピエンス・サピエンスという動物自体の性質を制御しようとしたあとが見られる。人間は、自分を自身の教育や能力によって制御する動物なのよ。そういう制御が成功した時、それをよろこんだ。わからないことを解明したり、困難を克服することは気持ちいいのよ。そして、それが文化なり規範となったものを正義と呼んでいるの」 

ヴィジョンズ p.264

 めちゃくちゃいい文章……

 

盤上の夜

盤上の夜 (創元SF文庫)

盤上の夜 (創元SF文庫)

 

第33回日本SF大賞を受賞した宮内悠介のボードゲームをテーマにした短編集。

全編通して盤上遊戯の盤面を用いて世界を描くという主題が通っていて一本筋の通った短編集になっていたのが良かった。 

特に、既に完全解が証明されているチェッカーゲームで50年以上人類最強として君臨してきた実在のチャンピオン、マリオン・ティンズリーを主人公に描く人間の王と、将棋をテーマに世界を描ききった千年の虚空が個人的に気に入っている。

昨今現実でも将棋や囲碁など、プログラムが人類を超える瞬間が増えてきているが、プログラムではなく人間がその競技を行う意味というのを描写されると人間賛歌に弱いので泣いてしまうことがわかってよかった。

 

いいデザイナーは、見ためのよさから考えない

いいデザイナーは、見ためのよさから考えない (星海社新書)

いいデザイナーは、見ためのよさから考えない (星海社新書)

 

 これも友人にオススメされたので読んだ。

デザイナーの有馬トモユキによる「デザインとは何か」について書かれた本。

前述したなるほどデザインよりも著者自身の観念的な「デザインの論理」について書かれていたのと、著者自身が今まで携わってきた小説の表紙やアニメのキービジュアル等のデザイン案が多数載っていて興味深かった。

 

少女妄想中。 

少女妄想中。 (メディアワークス文庫)

少女妄想中。 (メディアワークス文庫)

 

 入間人間の女性の女性に対する女性の感情を取り扱った短編集。

それぞれの作品が独立したものかと思いきや全てが繋がり伏線が回収される見事な手腕とミクロで精緻な感情描写がとにかく上手い。

仲谷鳰先生の表紙も最高で、表紙に描かれている40歳の叔母と高校生の姪の二人の関係性を描いた君を見つめてが余りにも美しい話の畳み方で読み終えた後溜息をついてしまった。

 

これから読む本

 今は新井素子グリーン・レクイエムを読んでいる。

グリーン・レクイエム (講談社文庫)

グリーン・レクイエム (講談社文庫)

 

後は安達としまむらの続刊をとにかく早いところ読んでしまいたいという気持ちになっているのでちょくちょく買って読んでいるくらいで他には特にない。