ストーリー・オブ・ザ・イヤー 2019
特段なにもせず毎日を過ごし現実を生きるという行為を物語と物語の合間の息継ぎ程度にしか考えていなくても、1年を回顧し決算することでなにかを成し遂げた気になれて気持ちがいいというのと、自分の感情は自分でアーカイブしておかなければ日毎に霧消していくので今年の総括の記事を書くことにした。
毎年楽しみにしているブログの企画で「話数単位で選ぶ年間アニメ十選」というものがある。これはその年に放送したアニメの単話ベストを十個挙げるという企画であり、去年は参加した。
1年を決算するという意味で丁度いいなぁと思っていたけど、企画の特性上当然ながら過去放送されたアニメを挙げることはできない。2019年を生きている間2019年の作品だけに触れているわけではもちろんなく、過去の作品を見ることももちろんある。また、アニメだけに限定せず物語という括りで十選を行ったほうがより今年の自分のアーカイブとしてはより正確になると考えた。
題してストーリー・オブ・ザ・イヤー。
おおまかなレギュレーションは下記の通りにしておくので気が向いたら皆さんも2019年を回顧してみてください。
ストーリー・オブ・ザ・イヤー
・年間でもっとも良かった作品を10本挙げ、記録として残しておく
・ランキング形式ではない
・その年の作品という縛りではなく過去の作品で今年見たものでもOK
- 天冥の標
- バミューダトライアングル ~カラフル・パストラーレ~
- 最悪なる災厄人間に捧ぐ
- さよならの朝に約束の花をかざろう
- SeaBed
- ことのはアムリラート
- 私の推しは悪役令嬢。
- Sky[rain]
- Re:ステージ!
- ガールズラジオデイズ
- 選外の作品
天冥の標
2019年2月に完結した小川一水の人類史に残る傑作スペースオペラである天冥の標。
正直なところ最終巻にあたるⅩ巻の内容をすべて理解できているとは言いがたいほどに難解な作品ではあるのだけれど、人生に残るレベルで感銘を受けたことは間違いない。
天冥の標最終巻を2019年2月に読んだことを一生忘れることはないと思うし、その事実が存在する限り人類に絶望することはないだろうな、と確信できる。
人類が生きていて、よかった〜〜
バミューダトライアングル ~カラフル・パストラーレ~
「わたし」と「あなた」を丁寧に描く物語かと思いきや、本当に描いていたのは「わたし」と「みんな」だったという、信じられないくらい頭のいい人達が作った最高のアニメ。2019年一番良かったアニメはやっぱりこの作品。まなびストレートから始まる女の子たちが自分の力で世界を少しだけ拡張し、大きく成長するタイプのアニメにめちゃくちゃ弱いのだけれど、個人的にカラパレはその中でも白眉。
最終的な結論の出し方だったり、この5人+1匹じゃないと見れない世界があるってことへの説得力を12話かけて描いているのでケチをつけるところが一つもない。全体を通して100点満点中100点満点で、加点方式だと5阿僧祇点。
最悪なる災厄人間に捧ぐ
“「絶望的な状況の中で抗うキャラクター達の物語」を貴方に提供します。”と公式サイトに明記していることで一部界隈で有名なウォーターフェニックスとケムコによるノベルゲーム。看板に違わぬ内容の、かなり辛い気持ちになる作品。
ネタバレがかなりクリティカルになるタイプの作品なので例に漏れず何も書くことはできないのがとても歯がゆいが、ただ言えるのは本当に素晴らしい愛と主観と克服の物語だった。
ヒロインに愛着が持てるなら絶対に最後までプレイできると思うので、見た目だけでも気になったらぜひプレイしてみてほしい。
キナの事が本当に好き……
さよならの朝に約束の花をかざろう
ありきたりなテーマと言えばそれまでだけど、そのありきたりなテーマに真正面から向き合って残酷に、それでいて丁寧に美しく描ききった作品。
色々と言いたいことはあるけれど、感想を探していたら見つけたこのブログの方が自分の解釈を完全一致で書いてくれていたので自分から書くことは何もない。
SeaBed
愛と祈りと主観と受容の物語。
友人に勧められてプレイし、2019年という括りでは収まりきらず人生レベルに感動した作品。
なにを言っても野暮になるし、核心に触れずに作品のよかったところを書くのがかなり難しいので今までずっと言語化できていなかった(これからもするつもりはない)のだけれど、おそらく自分が創作や人間に対して思っていたことを100%一致した解釈かつ肯定してくれた、という点に感動したんだと思っている。(こう書くとエゴに満ち満ちていている気もするが。)
もしこの作品を今まで知らずにこの記事を見てプレイする、という奇特な人がいるのであればどうかお願いです、公式サイトのStoryやDLsiteの作品紹介を読まずにプレイしてください。ネタバレによって作品の価値が落ちるタイプの作品ではないにせよ、体験として損なわれるのが本当に悲しいのでどうかお願いです、どうか……
プレイすると冬の海に行きたくなります。多分。
ことのはアムリラート
1年近く積んでいたが最近意を決してプレイした作品。
悪いところが一つもないというタイプの作品ではなく、物語の展開に納得がいかない部分なんかも正直あるけれど、それを差し引いても素晴らしい作品だった。
かいつまんで作品の説明をすると、ユリアーモというエスペラント語をベースにした架空言語が使用される異世界に飛ばされた主人公リンと現地の少女ルカによるガールミーツガール情緒激突言語SFである。
言語とは人間が用いる意思疎通のためのツールで、日進月歩で変質していくものであるが、どんな形であっても自分の気持ちを相手に伝えることさえできればなにも問題はない。例えるなら「役不足」という言葉の持つ意味が時を経て真逆になってしまったり、了解を表す言葉をいつの間にか平仮名一文字で表すことができたり。同じ価値観を共有しているものなら問題なく意思疎通を図ることができるだろう。ならば、同じ価値観を共有していなければ?その言葉は違う意味を持ち、正しい気持ちを伝えることができないかもしれない。
そんな異文化、他言語の交流の難しさを可憐な少女ふたりの関係性を通して描き、エンタメとして成立しているバランス感が本当に凄く、技巧面的なところでも感動してしまった。
本筋に関わるのでここには書かないけれど、ユリアーモの言語ルールに則った際の名前の変化の下りがこの作品の本質なので、そのシーンが一番好き。
続編であるいつかのメモラージョはまだプレイできていないので来年中に絶対手を付けたい。
今年読んだめちゃくちゃ面白かった異文化コミュニケーションを取り扱った本も参考に貼っておく。(全く関係はない)
私の推しは悪役令嬢。
いわゆるなろう小説というのは今まで全然読んだことがなかったのだけれど、一部で話題になっていたので読んでみたらめちゃくちゃに感動してしまった。
疎いので知らなかったのだけれど、男性向けなろう小説のテンプレートがウィザードリィやらの世界観を通底した世界であるのに対して、女性向けなろう小説のテンプレートは架空のファンタジーモノの乙女ゲームの世界であるらしい。
「乙女ゲームのヒロインですけど、悪役令嬢のことが好きじゃダメですか?」
乙女ゲーム「Revolution」の世界にヒロイン、レイ=テイラーとして転生した社畜OL、大橋 零。
彼女の推しは攻略対象の王子様たちではなく、悪役令嬢のクレア=フランソワだった。
クレアのいじわるを嫌がるどころか嬉々として受け入れるレイ。
巻き込み系主人公が送る、異色のラブコメの始まりである。
こじらせた愛をレイに向けられた悪役令嬢、クレアの明日はどっちだ?変化球な悪役令嬢シリーズ第二弾です。
普通とは少し……ほんの少しだけ違う悪役令嬢モノをお楽しみ頂ければと存じます。
「私の推しは悪役令嬢。」(以下わたおし)の何にそこまで感動してしまったかと言うと、完全にメタ・フィクションとして書かれている点だ。
乙女ゲームにおける悪役令嬢という属性はあくまでも主人公に対する当て馬であり、主人公が報われるハッピーエンドでは概して不幸な道を辿ることになる。一般的な女性向けなろう小説では自分が悪役令嬢として生まれ、その不幸なフラグへと至る可能性を消していく、というのが多いが、わたおしは違う。レイは主人公として生まれ、レイの愛してやまないクレアは悪役令嬢だ。
わたおしは、ゲームでは救えなかったクレアを救う物語である。
誰もが一度は夢見たであろう物語の救済を、描かれる世界が架空のゲームそのものである、というなろう小説のテンプレートの文法を最大限活かしているのが本当に凄くとてつもなく感動してしまったので、メタ・フィクションが好きな人にぜひ読んでもらいたい小説。
Sky[rain]
前述したSeaBedを勧めてくれた友人にオススメされプレイした作品。最高のゲーム。
この作品も言語化が一切できないし、なにを言っても野暮だしネタバレになるのでなにも書くまい。
もしこのゲームをプレイするなら、Sky[Rain]→Sky[]→Sky-Rainの順で体験し、一作クリアするまで別の作品のDLページは見ないでほしいし、完全に詰むまで攻略は見ずにプレイしてほしい。あとはお願いなので彼女達に真摯に向き合ってあげてください。
Re:ステージ!
軽い気持ちで放送していたアニメを見たら人生で5本の指に入るくらい感動し、生まれてはじめて二次元アイドルのライブにも足を運ぶことになった作品。公式サイトに書かれている「夢を追いかける女子中学生アイドルの物語」という文字だけで涙腺がゆるむくらいにはリステのおかげで情緒がハチャメチャになっている。
周回遅れの肯定と夢を追うことの素晴らしさ、という命題によって形作られている作品で、説得力と強度が高すぎるのでもはや何も言うことはない。
生まれてはじめて行った二次元アイドルのライブになった「Re:ステージ! PRISM☆LIVE! 3rd STAGE~Reflection~」も、おそらく走馬灯で見る景色の一つになるだろうなと思う程度には感動したので、2020年開催予定のワンマンも可能な限り参加したい。
このブログを読んでいる人にはおそらく釈迦に説法だと思うが、Re:ステージ! ドリームデイズ♪を見て感動した人にはアニメで描いた周回遅れの肯定から先頭集団に追いついた後のKiRaReの物語を描く原作ゲーム「Re:ステージ!プリズムステップ」のストーリーを読んでほしい。
ガールズラジオデイズ
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ人生を頑張ってみようかなと思わせてくれた作品。
2019年はガルラジ、2020年もガルラジ。
選外の作品
アニメだとまちカドまぞくは本当に最高だった。(愛と祈りに満ちた作品なので)
漫画を読んでいる時に気付かなかったことをアニメの最終回のナレーションで全て理解できたのがアニメを作るのがうまいな〜と感動してしまった。
映画だとヴァイオレット・エヴァーガーデンの外伝も自分の求めるハッピーエンドそのものみたいなめちゃくちゃ前向きな結末だったので本当によかった。外伝小説はとんでもなさすぎる。
あとはフラグタイムも主観と相互理解、自己理解の話として本当に100点満点。原作漫画も良かったけど無音の演出ができる映画が本当に良かったのでぜひ映画館で見てほしい映画。
忘れてはいけないのがフレームアームズ・ガール~きゃっきゃうふふなワンダーランド~。メタ・フィクションが大好き!
小説だとまだ完結してないので挙げなかったが、筺底のエルピス 6 -四百億の昼と夜-は2019年一番面白い小説だった。本当に狂うほど面白い。規模感が大きすぎる。
アステリズムに花束を収録の陸秋槎「色のない緑」は2019年ベスト短編小説。
そこにいない人の想いみたいなものを描写されると無条件で泣いてしまう。
忌録: document Xは技法として感動したしそれだけでなくしっかり怖くて本当によかった。
漫画だと先日完結したやがて君になるはもう何も言うことがないほどに素晴らしい作品だった。
あとはストレッチも人生を最高打点理論で生きている自分はめちゃくちゃ食らってしまい、2,3日は引きずった記憶がある。
ゲームだと最悪なる災厄人間に捧ぐ制作のウォーターフェニックスの前作、一緒に行きましょう逝きましょう生きましょうも人間の実存と愛を描ききった最高の作品だった。3,4時間でクリアできるくらいのボリュームなのでまずはこちらからプレイしてもいいかもしれない。
今回挙げた物語たちを改めて見ると、ほぼ全ての作品が女性と女性の情緒と関係性を扱った作品ばかりで偏っている気がしたので来年はもう少しバランス感覚を養っていきたい。
2019年に創作を楽しむ上での個人的な命題が『愛』と『祈り』と『主観』と『受容』であり、これらが命題に据えられている作品を見ると無条件で100点満点を出してしまう状態異常にかかっており、 今回挙げた全ての作品は上記の何かしらが命題になっているので、もし愛や祈りが描かれた作品に触れなければ死んでしまう状態異常にかかったらどの作品でもいいので手を出してみてください。