最近読んだ本 2018/03/01-2018/03/31
今月はそこそこに本を読んだ。
ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム
現在カクヨムにて連載されている”The video game with no name”の書籍版。
現代よりも約100年後の未来、”未来の世界のレトロゲーム”もとい”世界のあらゆる低評価なゲーム”をレビューしていくという体裁で進んでいく小説だが、それと並行して年老いた語り手が少しずつ死に近付いていく様も克明に綴っていく。
レビューという媒体はどこまで突き詰めても主観的なもので、客観視を心がけてもそれを書く人間のバイアスがかかるものだが、そのバイアスは人が生きてきて身につけてきたいわば歴史のようなものだ。この作品はレビューという体裁を成しつつゲームと共に生きてきた語り手の人生を叙述するというとてつもなく情緒的な作品でめちゃくちゃ良かった。
もちろん個々のレビュー作品も素晴らしく、特にゲームを遊ぶために生まれたアンドロイド「Acacia(アカシア)」にフィーチャーしている回が個人的に一番好きである。
人類には生まれてきた理由はありませんが、人工知能には生まれてきた理由があります。製品である彼らには、開発理念という存在のコンセプトがある。例えばAcaciaには、ゲームを遊ぶみんなの友達になるという、生まれてきた理由がありました。
震えるほどカッコいい一文。
書籍版と同じ内容が前述のカクヨムに掲載されているので気になった方は是非読んでいただきたい。
機龍警察 暗黒市場
先月より読み始めている機龍警察第三作目。
ユーリ・オズノフが主役の巻だがこれがまぁ狂うほど面白かった。
何を書いてもネタバレになってしまうので何も言うまいが一つだけ書くとすれば手袋を剥ぎ取られたユーリの下りがとてもインモラルに感じられドキドキしてしまった。
やめろ、見るな、見ないでくれ――
意味をなさない絶叫を上げる。コンクリートの上でがむしゃらに縮こまり、左手を見せまいと全身で隠す。
男達は寄ってたかってユーリを殴り、押さえつけ、腕を取った。たちまち左の手袋が剥ぎ取られる。
彼らはさらに両手の指をつかんで無理矢理開かせた。左の刺青が露わとなった。
(中略)
ユーリは幼な子のように泣いていた。上着を剥がされたワイシャツ姿で。手足を取られたまま、抵抗する気力もなくしてただ涙を垂れ流す。最悪の恥辱。
機龍警察 暗黒市場 p.285
いやらしい。
紙の動物園
少し前から気になっていたケン・リュウのSF短編集。
評判通り全作とてつもなく完成度が高くてめちゃくちゃ面白かった。
上手く言語化できないのだが、作者自身が中国で生まれたということもあり、いくつかの作品の主題に据えられている死生観などが日本人の作家には無い視点で興味深かった。
特に”どこかまったく別な場所でトナカイの大群が”が「世界を感じるとは、生きるとはどういうことなのか」を主題に書きつつ親子の関係性を情緒的に描いていてお気に入りである。
「人類が生みだした最高に美しい創造物のひとつ。人類が作ったものはなにひとつとして永遠には残らないの、レネイ。データ・センターでさえ、宇宙の熱死のまえにいつかは崩壊してしまう。だけど、本物の美は残る。たとえすべてのリアルなものが必ず滅びるとしても」
めちゃくちゃ良い一文。
あなたは今、この文章を読んでいる。:パラフィクションの誕生
最近メタ・フィクションな作品に触れ頭がおかしくなるほど琴線に触れることが多かったので勉強の意味で読んだ。
コンテンツとポスト・モダンを絡めて論ずる下りがこの手の本にありがちすぎて食傷気味にはなったが円城塔と伊藤計劃をメタ・フィクションとして読み込む章の文章がハチャメチャに情緒的かつ叙情的で少し涙ぐんでしまった。
この本ではタイトルにある通り、メタ・フィクションとパラ・フィクション*1という造語を区別し解説されている。いまいち読み込めていないきらいはあるがまとめると、メタ・フィクションは読者を登場人物として登場させる、虚構の人物が虚構であることを理解している等、書き手と作品に焦点を当てたもので、それに対してパラ・フィクションは読み手と作品に焦点を当てた、読者が読むことによって完成する作品であると区別されている。*2
今までメタ・フィクション的な作品をいくつか読み、メタ・フィクションにも自己言及的なものと他己言及的なものと分かれていて色々とジャンル分けはあるよなと漠然と思っていた部分が上手く言語化されてスッキリした。そして自分はメタ・フィクションよりもパラ・フィクションが好きなのだな……ということが分かってよかった。
ある日、爆弾がおちてきて
全ての短編の主題が”時間”で統一感が持たれていたのと余りにも素直なライトノベル感がめちゃくちゃ良かった。
特に”3時間目のまどか”と”むかし、爆弾がおちてきて”が短編として美しすぎてとても好き。
AIと人類は共存できるか?
人工知能をテーマに置いたSFアンソロジィ。
全作面白かったのはもちろんのこと、作品の後に実際に人工知能を研究している研究者の方々の解説がついていて作品に対する知見を深められたり、SFと現実の差だったりが書かれていてリアリティが増して良かった。
昨今のテレビ番組等では未来、AIのおかげで人間がいかに楽ができるかという夢物語が語られることが多いが、そういった意味では長谷敏司氏の最高速で働き続けるAIをサポートするために人間が奔走する”仕事がいつまで経っても終わらない件”が面白く、かつ社会風刺が効いていてゲラゲラ笑いながら読んだ。
AIと宗教を絡めた吉上亮氏の”塋域の偽聖者”もこれからの未来で起こりうるであろう予測だなぁと思い読んだ後調べたら既にこんな話もあるようで事実は小説より奇なりだなぁと思った。
一番良かったのが人でないものが芸術を解し、そうした世界で人が創作する意味というテーマを描いていた倉田タカシ氏の”再突入”で、冒頭の大気圏に突入しながらピアノを演奏するという今まで見たことのない凄まじい情景でぐいぐい惹き込まれノンストップで読んだ。
「もちろん鑑賞者はいるよ。自分自身が、自分の作品の、ただ一人の鑑賞者なんだよ。それは、ぜんぜん悪いことじゃないよ。誰かに価値を決められる必要がないってことは」
AIと人類は共存できるか? 「再突入」 p.399
メチャクチャカッコいい一文。
BLAME! THE ANTHOLOGY
弐瓶勉氏のBLAME!の世界観を題材としたSFアンソロジィ。
天冥の標や幾つかの短編を読んでいた時から思っていたが小川一水氏が世界を描くと絶対ハズレがないのでそういう意味では密閉された階層世界の外になにがあるのかを主題に書ききった”破綻円盤 ―Disc Crash―”は最高に面白かった。
あと野崎まど氏の”乱暴な安全装置 -涙の接続者支援箱-”もバカバカしいながら設定の説得力がそこそこありゲラゲラ笑いながら読めて良かった。
これから読む本
マルドゥック・アノニマスの最新刊が出たので読んでいるが、これまた頭がおかしくなるくらい面白い。
コレ以外は特に積んでいる本もないのでなにか面白い本があれば教えていただきたい。