恥の上塗り

恥の恥

【ガルラジ】やがてリスナーは世界に入門する──ガールズ ラジオ デイズ

先日行われたニコニコ超会議内のステージイベントにてセカンドシーズンが発表され、現在もなお私の脳のリソースを支配し狂わせているコンテンツであるガールズ ラジオ デイズ、通称ガルラジ。聴き始めた当初からガルラジに対して続けていた思考をセカンドシーズンが開始する前に脳のリソースを開放する意味も込めて記事として出力しておくことにした。

この記事ではガルラジをメタ・フィクションとして解釈するとともに、リアルタイムで体験することの意味について書いていく。

すでにガルラジを楽しんでいる多くのリスナーの方には釈迦に説法だろうし、ネタバレがあるので未聴の方向けの記事ではないが、気が向いたら読んでもらいたい。

ガルラジを未だ聴いていない方は、勝手に私が全幅の信頼を置いているフォロワーさんが書いた未聴の方向けの紹介記事を読み、興味を持ったら私が一番好きなチーム富士川の第一回放送を聴き、ガルラジの世界に入門してほしい。

 

ガルラジは虚構か現実か

第一に、ガルラジの虚構に対するスタンスについて書いていこう。

まず、ガルラジ公式のイントロダクションの一文を引用させていただくことにする。

リアルでありリアルでない、物語であり物語でない。
そんなちょっぴり変わったお話をみなさん応援してください。 

上記の文からわかるように、ガルラジは現実と虚構のちょうど中間のコンテンツだ。我々リスナーの作品に対する接し方によってはガルラジの世界は現実でも虚構でもありうる。

例を挙げよう。オカジョ第一回放送にて二兎春花が話題に挙げた、萬歳智加の父が経営する「カフェテリアばんざい」というカフェがある。

初めてオカジョ第一回を聴いた際私はガルラジに触れてすぐだったため、二兎春花が楽しそうにオススメの玉子サンドやフレンチトーストの話をするカフェは実在のもので、おそらく聖地のような存在なのだろうと思っていた。その後にインターネットで岡崎市のカフェについて検索を行ったところ、「カフェテリアばんざい」が現実には存在しないという事を知った。

その瞬間、確実にガルラジの世界と私の世界は遠ざかった。「カフェテリアばんざい」が現実に存在しないという事実を観測しなければ、私の中の愛知県岡崎市に「カフェテリアばんざい」は確かに存在したであろう。

思考実験でよく犠牲にされる猫の話のように読めてしまうかもしれないが、観測(検索)をしなければ手取川海瑠の等身大パネルが飾られている「白山お風呂ランド」も、ガルラジ世界の岡崎市民が愛してやまない「岡崎一番本気味噌ドレッシング」も、全て存在するもののままだった。

NEXCO中日本が協力していて、おそらく地域活性・地方創生を意識しているであろうコンテンツであるガルラジで敢えて虚構を描写する意味とはなんなのか。*1

 ここでガルラジの特色のひとつである“つぶやき”というコンテンツについて説明しておこう。

ガルラジ公式アプリには、ラジオのアーカイブを聴くだけではなく、つぶやきという機能(私たちの世界でいうTwitter)が存在する。毎日彼女たちが日々起こったことを発信するものだ。(この記事を書いている現在つぶやきは機能を停止しているが。)虚構の存在である彼女達の日常という矛盾したコンテンツであるが、ここにガルラジというコンテンツの特殊さが垣間見える。

“つぶやき”は、文字通りテキストのみで更新されていき、前述の通り今日はなにを食べただの、今日はどこに行っただののあまり特筆する点もないような日常が綴られる。そのテキストのみ、というのが肝要で、取得できる情報の少ないなか、私たちは彼女たちの様子を想像することを余儀なくされる。

玉笹彩美が部屋でダンスのレッスンを行い、玉笹彩乃が騒がしいと怒る。文にしてしまえばなんてことない情景でも、彼女たちが自身の手によって叙述するつぶやきには情感とリアリティが詰まっており、その想像の余地がガルラジの実在性を補強していると言っても過言ではない。人類が現代に至るまでに悪魔や妖怪や宇宙生物に対して恐怖を覚えてきたように、想像というのは無限かつ、現実よりも現実味のある質感を持つこともある。彼女たちの思考、行動、感情等々の身体性が文章という不完全なフィルタを通すことにより想像の余地が生まれ、知らずのうちに私たちは脳内で彼女たちを実在の人物に近いところまで昇華させている。

そういった実在性の狂気に陥り虚構と現実の境界が曖昧になった私たちを優しく突き放すため、あえてガルラジは虚構を描写しているように私は考える。その装置が、「カフェテリアばんざい」であり、「白山お風呂ランド」であり、「岡崎一番本気味噌ドレッシング」なのかもしれない。

 

世界への入門

次に、ガルラジのメタ、パラ・フィクション性について書いていくことにしよう。

ラジオは比較的相互作用性の強いコンテンツだ。リスナーのメッセージやリクエスト等を受け付けているラジオ番組がほとんどで、相互作用にてコンテンツを形作っていくことが多い。ガルラジも例に漏れず番組内で私たちが送ったおたよりを読み、それに反応を起こし、番組が作られていく。そんな構造に対して特に意識を向けていなかったが、チーム富士川第6回の「週末はあなたとカンパイ」のコーナー内で、チーム富士川の面々が今までコーナーにおたよりを送ってくれた方々のラジオネームを読み上げ、感謝の言葉を伝えるシーンを聴いた時、私は衝撃を受けた。

相互作用によって作られるラジオは、パーソナリティとリスナー両方の存在によって成り立っている。つまり、パーソナリティである彼女たちと同様、リスナーもガルラジという物語の登場人物たりえるという構図が完成する。その中でもラジオ内でおたよりを読まれたリスナーはただラジオを聴いているリスナーよりも実在性が高い、ということに最終回にして気付き、愕然とした。
 

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余談だが、ガルラジ公式アプリの紹介画像で既にその事実が折り込まれている。完全に手のひらの上でタップダンスを踊らされていることがわかった。

世界が同期する瞬間

前項を踏まえ、一番書きたかったガルラジというコンテンツをリアルタイムに体験していくことの意味について書いていきたい。

ガルラジをラジオ風ボイスドラマとして解釈されている方もおそらくいるだろうが、私はそうは思っていない。ガルラジはラジオである。

ガルラジはシーズン中毎週(各チーム隔週で放送を行う)金曜日19時30分より、youtubeのプレミア配信やニコニコ生放送を用いてリアルタイムに放送される。ラジオというのはテレビ等に比べリアルタイム性が重視されるコンテンツだ。そこにガルラジがラジオたる所以がある。リアルタイムでガルラジが配信されているとき、彼女たちが存在する世界と私たちの存在する世界の時間が同期するのだ。

前述した“つぶやき”というコンテンツには、Twitterとは違いつぶやいた日や時間が表示されない。おそらくこれはリアルタイムにつぶやきを読むということを重視させるために敢えて表示していないのだと思われるが、そのおかげで彼女たちが何月何日の何時何分何秒にこういうことを考えていた、というのがかなり分かりづらい。バレンタインデーなどの日にちを特定できるつぶやきは多くあるが、時間を特定することはほぼ不可能であり、彼女たちと私たちの間には多少の時間のズレが生じることとなる。

そのズレが無くなり、ガルラジの世界と私たちの世界の時間を同期する瞬間がある。毎週金曜日19時30分から約30分ほどの生配信だ。

ラジオはリアルタイムに進行していくコンテンツであり、30分の放送を行うには30分かかる。それはリスナーである私たちにも同じことが言え、30分の放送を聴くには30分かけなければならない。その瞬間、彼女たちの時間と私たちの時間が同期される。リアルタイムに物語が生まれているという事実とともに、虚構である彼女たちと刹那だけ交わることができ、ガルラジという世界に入門することが可能なのだ。

ボイスドラマはリアルタイム性よりも物語性が重視されている。必ずしも叙述である必要はないし、場合によっては過去や未来まで時を移動することもできる。ガルラジのアーカイブを聴くという行為は比較的ボイスドラマ的であり、そこにある物語をなぞるのに他ならない。もちろん物語を享受するだけでも体験としてはかなり特殊なものだとは思うが、私はリアルタイムに配信を聴き、世界を同期することがよりガルラジを濃密に体験する手助けになっていると考えている。その点がガルラジの異常たる所以であり、他の作品には無いメタ・フィクション的な視点なのだ。

 

余談だが、先日行われたガルラジ in 超会議内で行われた公開録音パートにて、本渡楓さん演じる二兎春花が「ニコニコ超会議の会場の皆さ〜ん!」と発言した瞬間に私たちリスナーは強制的に世界に入門させられ、呼びかけに対し拍手や歓声等の身体的なリアクションを取ることを余儀なくされた。
前述の通り、今までリアルタイムに配信を聴いている時はこちらからガルラジの世界に歩み寄る、という能動的な行動を起こす必要があったが、公開録音の場ではただそこにいるだけで受動的に世界に組み込まれ、気がつけば「私たちの世界」のリスナーではなく、「ガルラジ世界」のリスナーへと変貌するというもはやホラーチックな瞬間があり、全身が怖気立ったのを未だに覚えている。

その感覚はおそらく現地にいたリスナーにしか理解できないものだと思うので、もし次回以降ガルラジのリアルイベントがあれば是非体験してほしい。

 

 

この記事を通じつまりなにが言いたいのかというと、セカンドシーズンは全力でおたよりを送り、ワイワイ毎週金曜日の19時30分に大騒ぎをしながら生配信を聴き、リスナー全員でガールズ ラジオ デイズの世界に入門しよう。ということだけである。みんなで全力でガルラジというコンテンツに飲み込まれていこう。

 

2019年はガルラジ!

 

 

 今回の記事の参考文献のような本。

 

 

*1:チーム御在所のように実在の場所を取り扱うケースももちろんあるが。